「ショートカット、行けるんじゃないか?」——右ドッグレッグのティーグラウンドに立つたび、この悪魔のささやきが聞こえてきます。コーナーの林を越えれば、セカンドはぐっと短くなる。同伴者も見ている。よし、行こう。……その結果が林からの横出しだったことは、数えるのが嫌になるほどあります。
ゴルフ歴22年、千葉・茨城の丘陵コースを中心に約280ラウンド。曲がったホールと高低差には、いやというほど付き合ってきました。その経験から出た結論は単純です。ホールの形状と高低差は、腕ではなく「ルートの引き方」で攻略する。 今回は、ドッグレッグのショートカットの損得勘定、打ち上げ・打ち下ろしの番手補正、そしてグリーンが見えないブラインドホールの心構えをまとめます。
なお、林間・丘陵といったコースタイプ全体の戦い方はコースタイプ別の戦略に書きました。この記事は「目の前の1ホールにどうルートを引くか」だけに絞ります。
ショートカットの損得勘定|成功しても得は0.2打しかない
結論から言うと、ショートカットは9割の場面で損です。感覚論ではなく、得と損を数字にすると釣り合わないからです。
右ドッグレッグ400ヤードのパー4を例にします。コーナーの林を越せば残り120ヤード、安全に手前へ置けば残り160ヤード。差は40ヤード、番手にして3つ分です。では9番アイアンと6番アイアンで、私のグリーンオン率はどれだけ違うか。スコア記録を見返す限り、せいぜい2割の差でした。つまりショートカットに成功しても、期待値では0.2打ほどしか得をしていません。
一方、失敗すれば林からの横出しで1打、OBなら実質2打を失います。仮に成功率が8割あっても、この賭けは割に合いません。しかも私のように苦手なドライバーでフルスイングした場合、成功率が8割もないのが現実です。
実際にやらかした例を1つ。茨城の丘陵コースにある右ドッグレッグの短いパー4で、「今日は当たっているから」と林越えを選びました。結果は木のてっぺんに当たって真下に落下。横に出すだけで1打、乗せて2パットのダブルボギーです。安全に打っていれば、悪くてもボギーで収まっていたホールでした。悔しいのは、このパターンを22年間で何度も繰り返していることです。「今日は当たっているから」は、悪魔のささやきの決まり文句だと今では思っています。
飛距離で得をしようとするより、曲げないことで損を消す。この考え方は「真っすぐは飛ばなくていい」戦略と同じ結論に行き着きます。ショートカットに挑んでいいのは、競技の最終ホールで1打差を追うような場面くらい。サラリーマンゴルファーの日常ラウンドには、まず存在しない場面です。
ドッグレッグは曲がり角に「置く」|番手はセカンド地点から逆算する
ドッグレッグの正しい狙いは、コーナーを越すことではありません。曲がり角のフェアウェイにボールを「置く」ことです。
手順は2つだけ。まずティーグラウンドで「曲がり角まで何ヤードか」を確認します。次に、その距離に一番収まりやすいクラブを選びます。曲がり角まで230ヤードなら、ドライバーでは突き抜けて奥のラフや林に入ります。それなら5番ウッドやユーティリティで210〜220ヤードに置くほうが、次のショットが圧倒的に楽になります。
つまり番手は「飛ばせる最大」ではなく、セカンドを打ちたい地点からの逆算で決めるものです。ティーショットで一番飛ぶクラブを握る理由は、実はどこにもありません。
もう1つ、お金のかからないコツがあります。ティーアップの位置です。ティーグラウンドは左右どこに立ってもいいルールなので、曲がる方向と反対側の端に立ちます。右ドッグレッグなら左端です。それだけでコーナー方向への角度が緩くなり、フェアウェイが広く使えます。280ラウンドやってきて、これを実践している同伴者にはほとんど会ったことがありません。パー4のルート設計の全体像はパー4の攻め方に、2打目以降も曲がりが続くパー5の刻み方はパー5の攻め方に詳しく書きました。
フック癖とドッグレッグの相性|左曲がりに右コーナーは鬼門
持ち球によって、同じドッグレッグでも難易度はまるで変わります。私の持ち球は左に曲がるフックです。
左ドッグレッグは、フッカーへのご褒美ホールです。曲がり角に沿ってボールが自然に回ってくれます。ただし調子に乗るとコーナー内側の林に食い込むので、狙いはあくまでコーナーのやや外側に取ります。
問題は右ドッグレッグです。フックはコーナーの外へ外へと膨らみ、左の林やOBゾーンに吸い込まれていきます。私の対策は、ドライバーを諦めて曲がり幅の小さい3番ウッドやユーティリティに持ち替えることです。曲がり幅は飛距離にほぼ比例するので、番手を下げるだけでルートの再現性が上がります。フック癖そのものと戦いたい方はドライバーのフック対策をどうぞ。
打ち上げホールは1〜2番手大きく|高低差は「建物の階数」で見る
打ち上げの鉄則は、表示距離を信じないことです。150ヤード表示の打ち上げは、150ヤードのクラブでは届きません。ボールが上がりきる前に地面が迎えに来るため、キャリーが削られるからです。おまけに打ち上げは目の錯覚で実際より近く見えます。「7番でちょうど」と感じたら、まず間違いなくショートすると思ってください。
私は建築メーカーの営業なので、高低差を建物の階数で見る癖があります。ビルの1階分が約3.5メートル。グリーンが「3階の高さ」に見えたら高低差10メートル前後、と換算します。私が使っている補正の目安を表にまとめます。
| 高低差の目安 | 打ち上げの補正 | 打ち下ろしの補正 |
|---|---|---|
| 約5m(建物1〜2階分) | 半〜1番手上げる | 半番手下げる |
| 約10m(建物3階分) | 1〜1.5番手上げる | 1番手下げる |
| 15m以上(建物4〜5階分) | 2番手上げる | 1〜1.5番手下げる |
もう1つ、打ち上げのグリーンではピンの根元が見えません。旗の上半分だけが見えている状態で距離感を出すのは、正直言って無理です。だから私は「見た目」を捨てて、計測した数字と補正だけで番手を決めます。高低差表示付きのGPS計測器を使えば、この換算は機械が代わりにやってくれます。機種の選び方はGPSナビとレーザー計測器の比較にまとめました。
なお打ち上げホールでは、足場も左足上がりの傾斜になっていることが多い。傾斜ライではさらに球が上がって飛ばなくなるので、補正は重ねて考える必要があります。足場の傾斜別の打ち方そのものは傾斜地の打ち方に譲ります。
打ち下ろしホールは番手を落とす|怖いのは飛びすぎより「奥」
打ち下ろしは逆に、番手を落とす勇気が要ります。滞空時間が延びてキャリーが伸びるうえ、実際より遠く見える錯覚も手伝って、つい大きめを持ちたくなるからです。
280ラウンドで学んだ打ち下ろしの怖さは2つあります。1つ目は風です。滞空時間が長いぶん、同じ風速でも流される量が増えます。打つ前に必ず、フォローかアゲンストかを確認します。2つ目は「奥」です。グリーン奥からは下り傾斜のアプローチが残ることが多く、寄せる難易度が一気に上がります。番手選びに迷ったら、打ち下ろしでは小さいほうを選ぶ。手前から寄せるほうが、奥から下りを打つよりはるかに簡単です。
一方で、打ち下ろしには打ち上げにない利点もあります。グリーンの全景が上から見えることです。ピンが手前なのか奥なのか、グリーンがどちらに傾いているのか、バンカーの位置はどこか。打つ前に得られる情報量が段違いなので、私は打ち下ろしのグリーンでは必ず一呼吸置いて、落とし所を決めてから構えるようにしています。
ティーショットの打ち下ろしにも罠があります。普段は届かないはずの前方バンカーやフェアウェイの突き抜けに、その日だけ届いてしまうのです。レイアウト図でハザードまでの距離を確認して、届く計算ならクラブを1つ下げます。
ブラインドホールの心構え|見えない不安は数字で消す
グリーンや着地点が見えないホールで一番危険なのは、地形ではなく「不安なまま打つこと」です。不安は当たりを緩ませ、緩んだスイングは左右に散ります。
私のブラインド対策は3つです。第一に、数字で地形を把握します。「あの丘の先、220ヤード地点からフェアウェイが右に落ちている」と分かっていれば、見えなくても狙えます。コースガイドとGPS計測器の出番です。第二に、目標物を高い位置に取ります。丘の向こうは見えなくても、遠くの鉄塔や高い木は見えます。方向の基準を先に決めてから構えるだけで、迷いが消えます。第三に、見えない場面ほど安全サイドに寄せます。確認できないリスクを取らないのは、ダブルボギーを防ぐコースマネジメントの基本と同じです。
そしてブラインドホールこそ、2回目以降に差が出ます。初見で96だったコースが5回目以降に平均87になった経験は、同じコースを繰り返し回るメリットに書いた通りです。見えないホールの「答え」は、通った回数だけ増えていきます。
ルートは家で引ける|気合より仕組み
ここまでの内容は、実はラウンド前夜に半分終わらせられます。私は予約したコースのレイアウト図を開いて、2つだけ印を付けます。ドッグレッグの曲がり角までの距離と、高低差が大きそうなホールです。時間にして5分。この5分があるだけで、当日ティーグラウンドで悪魔のささやきを聞いても、「いや、ルートは決めてある」と返せるようになります。
気合でショートカットを狙うのは、準備をしなかった日の自分です。準備をした日の自分は、曲がり角までの数字を知っているので、そもそも迷いません。判断を当日の気分に委ねず、前夜の自分に委ねる。これが私の言う「仕組み」です。
52歳、フック癖持ちの平凡なサラリーマンゴルファーでも、ルートを引く習慣のおかげでベスト76まで来られました。腕を磨くより先に、線を引く。私の持論である「気合より仕組み」は、ホール攻略でも変わりません。
ホールは真っすぐ攻めるものではなく、ルートを引いて歩くもの。悪魔のささやきに「曲がり角に置く」と返せるようになった日から、ドッグレッグも打ち上げも怖くなくなります。
