前夜にYouTubeを見て「わかった!」——翌日の結果はいつも同じだった
コンペ前日の夜、グループLINEに通知が来る。
「昨日これ見たわ。ドライバーの打ち方、完全に理解した。明日いけるわ」
リンクをタップすると、チャンネル登録者数百万人のプロゴルファーが、きれいな弾道でドライバーをぶっ飛ばしながら解説している動画だった。
翌日のラウンドで、その先輩は1番ホールのティーショットを大きく右に曲げた。
これが、何度繰り返されたかわからない。
「YouTube見た」→「わかった気がした」→「翌日大叩き」——このサイクルを、わたしは少なくとも十数回目撃した。そして正直に言えば、自分自身も同じことをやっていた時期がある。
プロが言っていることは「間違いではない」
最初に誤解を解いておく。
YouTubeに出てくるプロや上級者が言っていることは、間違いではない。ダウンスイングで腰を切る、グリップをゆるく握る、アドレスで体重を均等に——どれも正しい。
問題はそこではない。
「正しいこと」と「あなたに今すぐ効くこと」は、まったく別の話だ。
ゴルフスイングは、体型・筋力・柔軟性・長年の癖・利き手・骨格によって全員が違う。プロが「これをやれば直る」と言っている内容は、そのプロの経験から生まれた処方箋だ。それがあなたの体に合うかどうかは、動画を見ている段階では誰にもわからない——プロ本人にも、あなた自身にも。
| YouTubeで言われること | 実際の問題 |
|---|---|
| 「腰を先行させる」 | 腰が硬い人がやると別の動きが崩れることがある |
| 「グリップはゆるく」 | 強く握る癖がある人がやると飛距離が落ちるだけのこともある |
| 「ボールを左に置く」 | 軸がずれている人はトップが増えることもある |
| 「膝を曲げる」 | どのくらい曲げるかの感覚は人それぞれ違う |
「正しいアドバイス」が自分に合わない処方箋なら、飲んでも効かないどころか副作用が出ることもある。
YouTubeは「対処療法」に過ぎない
もう一つ、もっと本質的な問題がある。
YouTubeで学べるのは、症状に対する処方箋だ。「ドライバーが右に曲がる」→「フェースが開いてる可能性がある」→「グリップをストロングに」——この流れ自体は論理的に見える。
しかし、「なぜフェースが開いているのか」の根本原因は何か。
グリップなのか、テークバックなのか、切り返しのタイミングなのか、ダウンスイングの軌道なのか、アドレスの向きなのか——右に曲がるという「症状」の原因は、10人いれば10通りある。
YouTubeで提示されるのは「よくある原因のひとつ」に対する処方だ。自分の根本原因が何かを突き止めるプロセスは、動画の外にある。カメラの前のプロには、あなたのスイングが見えていない。
「わかった気がする」という罠
YouTubeが怖いのは、理解した気持ちになれることだ。
プロの解説は上手い。映像で見ればイメージが湧く。「なるほど、こうやって振ればいいのか」——その瞬間の腑に落ちる感覚は本物だ。だが、頭で「わかった」ことと、体が「できる」ことの間には、深くて長い谷がある。
スポーツの動作は、繰り返しによる身体への刷り込みがないと変わらない。
頭でわかっていても、長年染み付いた動きは「わかった」程度では書き換わらない。グリップの握り方ひとつ変えるだけでも、正しい感覚として定着させるまでに数百球〜数千球が必要なことがある。
前日の夜にYouTubeを見て「わかった!」と言った先輩は——翌日のラウンドまでに1球も打っていなかった。
独学10年で気づいたこと
わたし自身、スクールに通う前の10年以上、YouTubeと書籍で独学を続けた。
「スイングが改善された」と思えた日は何度もあった。でもスコアは90台から抜け出せなかった。理由は今なら分かる。
- 動画を見て「これだ!」と思ったことを練習場で試す
- 少し良くなった気がする
- 次の週に別の動画を見て「これも良さそう」と思う
- また試す
- また少し変わった気がする
- スコアは変わらない
これは課題を解決しているのではなく、課題を次々と入れ替えているだけだった。
根本にある「何が一番の問題か」を誰も特定してくれていなかった。自分にも見えていなかった。プロと対面で、実際のスイングを見てもらって初めて「その問題はグリップだった」と気づけた。
あの10年間、何本の動画を見ただろう。
YouTubeが役に立つ場面はある
誤解されたくないので補足する。YouTubeが完全に無意味だとは言っていない。
役に立つ場面:
- 課題がピンポイントで特定されていて、確認したい時
- スクールやレッスンで教わったことを復習する時
- ルール・マナー・コースマネジメントの知識を得る時
- モチベーションを上げる時(プロの試合観戦など)
問題なのは「YouTubeを見ること=練習した気になること」だ。情報を得ることと、身体の動きを変えることは別プロセスだという認識が抜けると、前日YouTube視聴→翌日大叩きのループから永遠に抜け出せない。
先輩への処方箋
あの先輩には、こう言いたかった。
「動画を見る時間の半分でいいので、練習場で50球だけ打ってきてください」と。
YouTube 30分より、練習場 50球のほうが、スコアに出る。
「前日に打ってきた」という人が好スコアを出すことはあった。「前日にYouTubeで勉強した」という人が好スコアを出すことは、わたしの記憶の中に一度もない。
わかった、ではなく、できた、に変えないとスコアは変わらない。
まとめ
YouTubeのゴルフ動画を否定したいわけではない。ただ、それだけでうまくなろうとするのには、構造的な限界がある。
- プロのアドバイスは正しいが、あなたに合うかはわからない
- 根本原因を特定せずに処方箋を変え続けても治らない
- 頭でわかることと体でできることの間には大きな距離がある
- 「わかった気持ち」は上達ではなく、むしろ上達を止める
スコアを縮めたいなら、誰かに実際のスイングを見てもらう機会を作ることが、十数本の動画を見るよりずっと早い近道だ。
YouTubeは情報を届けてくれる。でも、あなたのスイングを見てはいない。
🏌️ 「わかった」より「できた」に変えるために。 素振りで正しい軌道を体に刷り込む練習器具。重永プロ愛用モデル。
📱 自分のスイングを見たことがない人ほど、まず撮影してみてほしい。 練習場でスマホを固定・挟むだけのスイングチェックホルダー。